
概要:多業種が交差するプラント工事を事例で理解
プラント工事は化学・エネルギー・食品・水処理・医薬など業界ごとに制約と品質基準が異なります。ここでは代表的な5つの施工事例を取り上げ、計画〜施工〜試運転の各段階での勘所を具体的に解説します。単なる実績紹介にとどめず、再現性のある手順とチェックポイントに落とし込み、次案件の成功確率を上げることを目的とします。
事例に共通する評価軸
・安全:KY・リスクアセスメント、隔離・換気・ロックアウトの徹底
・品質:図面・WPS・検査要領の遵守、トレーサビリティの確保
・工期:クリティカルパス管理、長納期品の前倒し、人員平準化
・コスト:プレハブ化、共通足場・共通仮設、段取り時間の削減
事例1:化学プラントの老朽配管更新(SUS配管・稼働中改造)
既設を止めずに支線を切替える難易度の高い案件です。腐食の進んだ配管をSUSに更新し、溶接・洗浄・パスの管理を厳密に行いました。稼働中のため、隔離と養生、可燃物管理、火気作業の承認プロセスが要となりました。
計画と段取り
・アイソメ図で切離・新設・暫定バイパスを明確化し、停止時間を最小化。
・工場内加工場でスプール化し、現地は接続溶接と吊込みに限定。
・有機溶剤・特化則の主任者選任、立会い者のスケジュールを工程にロック。
施工と検査
・TIG溶接はWPSに基づき電流・シールド条件を管理。溶接部はPT検査を100%実施。
・フラッシングとピクル処理で清浄度を確保し、系統ごとにリーク試験を実施。
・足場は先行手すり・幅木を標準化し、火花養生と火気監視員を常時配置。
事例2:発電所ボイラー補機更新(重量物据付・短期定修)
停止期間が短い定修工程で、ポンプ・熱交換器の据付と配管更新を並行実施。重量物の搬入経路確保と芯出し精度、試運転までの一連の流れが品質と工期を左右しました。
計画と段取り
・機器の重心・吊点を事前計算し、旋回範囲と吊り代を確認。夜間に搬入窓を設定。
・基礎のレベル出しとアンカー位置を施工前検査で合格させ、据付当日のやり直しをゼロに。
・玉掛け+小型移動式クレーンの組合せで狭所吊込み、旋回時の干渉を3Dで確認。
施工と検査
・芯出しはダイヤルゲージで規定範囲に収め、エポキシグラウトを24時間養生。
・配管は事前スプール化、フランジ面はフェイスチェックを徹底。
・運転前チェック(振動・温度・圧力・漏えい)を記録化し、性能確認まで同行。
事例3:食品工場のCIP配管導入(衛生配慮・洗浄バリデーション)
衛生管理が最優先となる食品系では、材料選定・溶接方法・洗浄プロトコルの妥当性が評価されます。導入後の洗浄・殺菌の再現性を担保するため、バリデーション文書を整備しました。
計画と段取り
・SUS316L・電解研磨管の採用、サニタリー継手の標準化でデッドスペース削減。
・溶接は内面ビード管理を重視し、パージモニターで酸素濃度を監視。
・製造停止枠に合わせ、夜間に既設タップを実施、臨時衛生区画を設置。
施工と検査
・ボロスコープで溶接内面を全数確認、清浄度はATPふき取りで評価。
・CIPの温度・濃度・流量をロガーで記録し、洗浄プロファイルを提示。
・引渡し時にSOPと点検シートを提供し、教育を同日実施。
事例4:下水処理場の脱水設備増設(土木・据付・電気計装の連携)
屋外土木と機械据付、電気計装が絡む典型案件です。仮設動線と重機配置、雨天時の対策、臭気拡散の抑制など、環境条件に応じた計画が必要でした。
計画と段取り
・基礎コンクリートは配筋写真・出来形を段階確認、配管ピットは止水材を指定。
・重機の旋回範囲と歩行者動線を分離、仮囲いと誘導員を常時配置。
・盤内I/Oは事前マッピングし、試運転立会いの順序を工程に落とし込み。
施工と検査
・据付ボルトのトルク管理、ベルト・チェーンの初期伸びを追従調整。
・計装はアナログ信号のレンジとスケールを現地で再確認。
・降雨時はブルーシート+仮設屋根で工程を止めず、品質はサンプリングで担保。
事例5:医薬品工場のクリーンルーム配管(GMP準拠)
GMP要求の下では、施工そのものが品質に直結します。清浄度管理、異物混入防止、記録の完全性が重要で、書類と実作業の整合が必須です。
計画と段取り
・作業者の入退室手順、資材の持込動線、清掃ルールをSOP化。
・材料の受入検査とロット追跡を徹底し、逸脱時の判断基準を事前合意。
・フィルター交換や一時的な陰圧化など、施工中の環境変動対策を準備。
施工と検査
・溶接はクリーン側からの作業を基本にし、保護フィルム・防塵カバーを徹底。
・DOP(PAO)漏えい試験、微粒子・浮遊菌測定、差圧監視を段階実施。
・データインテグリティを守る記録様式を使用し、監査対応資料を同時に整備。
トラブルと学び:再発防止の仕組み
優れた現場ほど「小さな失敗の早期発見と横展開」が速い傾向にあります。ヒヤリハットや不適合を共有し、設計・調達・施工・検査が一体で是正することで、次の案件の初動から強くなります。実際には、朝礼や定例会での共有だけでなく、写真台帳・是正履歴・変更管理票をひとつの台帳にまとめ、検索できる状態に保つことが重要です。紙からデジタルへ移行するだけでも、似た事象の再発時に対策を短時間で引き出せるようになります。
よくあるトラブル例と対策
・製作図の寸法差異:3D干渉チェックと現地実測の二重化で予防。
・溶接部の再検査多発:WPSの見直しと溶接者の限定認証で品質安定。
・試運転での信号不一致:I/Oリストと実配線の突合せ、ループチェックの標準化。
まとめ:事例の型を自社標準に落とし込む
施工事例は「うまくいった話」で終わらせず、工程テンプレート、チェックリスト、写真台帳、教育資料という再利用可能な資産に変換してこそ価値が生まれます。自社の強みと市場の要請を結びつけ、同種案件の受注確度と収益性を同時に高めていきましょう。
